アマルフィ滞在2日目。
連泊なので、少しゆっくりしてもよさそうなものだが、この日も朝から写真取材。
それも昼前には取材を終え、アマルフィ海岸沿いの村チェターラのレストランSt Pietroへ向かった。
ずっと食べたかった絶品パスタ、ガルムのパスタ(Vermicelli alla Coratura)を目指す1日だ。
チェターラには行かなければならない理由があった
「ガルム」という言葉を知ったのは、もう20年以上前のこと。
あるTV番組で、南イタリアの特集をしていた。アマルフィ海岸のとある小さな漁村と、そこの主要産業であるカタクチイワシ漁が紹介された。そして、古代ローマから使用されてきたと言われる、カタクチイワシの魚醤づくりと、それをメインに使用しているレストランが紹介されたのだ。
その村はチェターラ、そしてそのレストランはSt Pietroだ。
このSt Pietroで、必ず注文されるという、ガルムで和えたパスタをTV画面越しに見たとき、「いつかこの村を訪れて食べたい」と思った。
その頃は、まだ日本でガルムなど手に入らなかった。
その後、様々な国の様々な輸入食材が手に入るようになり、ガルムも成城石井などで販売されるようになった。
そして、いつか見たTV番組を思い出して購入し、覚えているままガルムを使ってパスタを作ってみた。
タイのナンプラーとも違うイタリアの魚醤であえたパスタは、確かに美味しかった。
しかし、どこか違う・・・
TVで見た時に伝わってきた感動がない。
そう思ったのち、いつしかガルムに対する思いも薄れてきた。
その後も、仕事でイタリアを訪れる機会は何度もあったが、アマルフィ海岸を通ることはなく、まして仕事中に、個人的事情でそこに立寄れるようなことはなかった。
今回、自分自身の夏休みと取材したい町を選んでイタリア旅行を計画するとき、アマルフィは最初から訪れる予定に入れてあった。そして、同時に20年以上前に見たTV番組のことを思い出し、チェターラ訪問を予定に入れたのだった(以下記事参照)。
日本でガルムは手に入るけど、あのパスタは日本では食べられない、だから行こう!
ミシュランでは、「そこで食事をするために旅行する」とされるレストランが、三ツ星に格付けされる。旅行の目的というものは、きっとこういうことなのだろう。
自分自身にとって、チェターラのSt Pietroは三ツ星レストランで、行かなければならない理由があった。
ガルムで有名なチェターラのレストラン「St. Pietro」
さて、アマルフィのホテルにチェックインした日に、翌日訪れる予定のレストランについて、パソコンで下調べをした。
初めて訪れるのだから、予約をしたほうが良いだろうと考え、このレストランのホームページを確認したが、イタリア語のみのサイトだった。ここから想像する限り、店では英語は通じなさそうだ。
そこで、ホテルのフロントに依頼して、電話でランチの予約を入れてもらった。
翌日、中心の広場Piazza Flavio Gioiaに面した旅行会社兼観光案内所で、バスのチケットを購入してチェターラへ。片道45分のアマルフィ海岸ドライブに出かける。
チェターラは、典型的なアマルフィ海岸に点在する村のひとつで、小さな漁村だ。
海岸沿いの道路から、バスは左に曲がり、チェターラに入った。
事前に調べておいた、少し高台になっているバス停で下車すると、そのすぐ下が、目指していたSt Pietroだった。だが、入口はここではなかった。
予約していた時間にはまだ早いので、少しぶらぶらと歩いてみる。
ビーチで使用するものをあれこれ売っている小さな店があって、なんとなく日本の昭和なイメージだ。
目抜き通りらしき道を歩くと、すぐに海岸に出る。港の先まで歩いて、チェターラ全体の様子を一枚カメラに収めた(冒頭画像)。
再び海岸から町中へ戻り、目抜き通りらしき道を歩いた。
すると、レストランの表玄関へ通じる階段にたどり着く。カラフルなタイルで作られた看板に「St Pietro」の文字が見えた。
出迎えてくれたスタッフに、予約している旨を伝えると、すぐにテラス席に案内してくれた。大きな木陰に建っているので、風が涼やかだ。
スタッフはどうやら英語が話せるようなので、さっそく「自分たちはガルムのパスタを食べに来た」と伝えた。スタッフもわかっていたようで、うなずくとすぐにガルムのボトルと白い皿を持ってきた。
そして
「これはColatura di Alici(カタクチイワシの魚醤)というんだ。こうして、オリーブオイルと一緒に乳化させて、それをパンにつけて食べるとその味がよくわかるよ。」
と、手際よくそれを作りながら説明してくれた。
言われるまま、パンにつけて食べてみる。確かに、日本で購入した時に食べたときは、こんなことはしなかった。ただガルムをあえるだけではなかったのか・・・
ほどなくして、お待ちかねのガルムのパスタ(Vermicelli alla Coratura)が来た。
これがずっと食べたかったパスタだ・・・、先ほどパンで確認した味がパスタに絡まって、口の中に広がる。
とてもシンプルなパスタなのに、ペペロンチーノやカルボナーラとは違う深い味わい。
ようやくここにたどり着いたという思いだ。
これだけでもう満足だったが、パスタは前菜だ。メインは、スタッフが勧めるまま、その日の鮮魚を自分で選ばせてもらい、レモンソースのソテーにしてもらった。
このレストランでは、食後はコーヒーではなく、この地方のリキュール、レモンチェッロを飲むのだと聞き、言われた通りにした。
爽やかな味は、魚料理の味をすっきりとさせてくれた。
アマルフィの花火
食後、再びバスでアマルフィへ戻る。
来るときに下車したバス停へは、入口とは違う階段を上がると出られるというので、その階段へ向かった。
その途中に厨房の入口があり、そこからひょっこりと日本人の男の子が出てきた。
まさか、こんなイタリアの小さな漁村で日本人に会うことなど思いもよらず、ぶしつけにも、ここにいる理由を聞いてみたところ、このレストランで修業をしているのだという。
料理人を目指してイタリアへ来る人は多いだろうが、それくらいこのレストランは有名なのだろうと納得した。
そして、アマルフィに到着。
あらかた取材は終了しているので、アマルフィでの滞在をのんびりと満喫するつもりで、ショッピングを兼ねて、夕方の目抜き通りをぶらぶら。
昼食の量が多かったので夕食は軽めにと、シーフードのフリットと、スーパーで求めた白ワインと惣菜を購入。ホテルの部屋で、ゆっくり食事をするつもりだ。
ドゥオーモでは、ちょうど結婚式が行われていた。
広場に面した大階段を下りてくる2人を、観光客が祝福する光景に出会った。我々も目の前のバールに陣取りながら、それを祝福し乾杯。
その後は、大道芸人のパフォーマンスが始まり、夕暮れのアマルフィは、観光地らしい盛り上がりを見せた。
ウェディングに立ち会えたり、大道芸人のパフォーマンスも見て大満足なので、すっかり暗くなった道を海沿いにホテルに戻ろうとしたその時、ちょうど海岸あたりから花火が上がり始めた。
急きょスマートフォンでそれをカシャッ。しばらくイタリアの夏の花火を満喫して、ホテルへ。
思いがけないことの連続だった、アマルフィ滞在だった。
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