イタリアには、まだまだ知らないところがたくさんあるんだと実感するのは、このランチアーノのようなところへ訪れた時。
そもそも、アブルッツォへの訪問を決めたのは、ある1冊の本がきっかけだった。
ランチアーノは、その本の中に出ていた「橋の上の教会(上写真)」という紹介文に心惹かれて、今回の旅行に入れた町だ。
橋の上の教会
ランチアーノは、アブルッツォの古都として知られる。
町の中心プレビシート広場に建つサン・フランチェスコ教会には、「ランチアーノの奇跡(聖体の奇跡)」と言われる、キリストの聖体が祀られている。
8世紀に発見された、キリストの血と肉と言われるものは、ここランチアーノで保管されてきた。20世紀に入り、科学的検証が行われたが、その真偽は定かではない。
しかしながら、キリスト教徒にとっては重要な町だということは理解できる。
あいにく「ランチアーノの奇跡」は見てこなかったので、ウィキペディアから…。
駅から旧市街までは、徒歩でだいぶ距離があったがやっと到着。中心のプレビシート広場の様子は↓↓↓。
まずはお決まりの観光案内所を探す。町のマップを入手するためだ。サン・フランチェスコ教会を正面にみてちょうど左側に、観光案内所はあった。
地図を貰えばすぐに探せるだろうと、広場の真ん中に立ってお目当ての橋を探す。
しかし、地図にも視界にも橋らしきものは見えず、お目当ての「橋の上の教会」が一体どれなのかわからない。そこで、教会前の広場のベンチに座っていた老人に、声をかけてみた。
「すみません、マドンナ・デル・ポンテ(橋の上の教会のこと)はどこですか?」
すると、老人は突然立ち上がり、「教えてやるからついてこい」的な早口のイタリア語でまくしたて、さっさと歩きだした。「どこまでついていけばいいのか」と思案していると、細い路地をぐんぐんと進んでいく。
しばらくすると、以下のような光景が見渡せるところに出た。
探していた橋の上の教会は、プレビシート広場のまん前に立っていたサン・フランチェスコ教会のことだったのだ。
そして、冒頭の写真は、橋の反対側から撮ったもの。ランチアーノの谷にかかるこの橋の正式名称は、ディオクレツィアーノ橋(Ponte Diocleziano)という。
その後、この謎の老人は、教会の地下へと続く道を案内してくれた。地下からは、この橋がかかる谷をもっと近くから覗くことが出来る場所があった。
地下道を歩きながらも、何かいろいろ説明していたが、あいにく筆者はイタリア語の理解が乏しく、よく理解できなかった。おそらく、「ランチアーノの奇跡」のことを教えたかったのだろう。
その後もどんどん進み、階段を登るとプレビシート広場に出ることが出来た。なんてことはない、地下道、橋を見渡せる場所、プレビシート広場がひとつにつながっていたのだ。
案内をしてくれたお礼を言おうと思ったら、「そんなこと、たいしたことない」といった感じで、あっという間に広場を立ち去っていった。
老人にしては、とても足が早い。せめて、名前や連絡先でも聞いておけばよかったと思った。
まさに、イタリア人らしい人懐っこさに触れた町だった。
ランチアーノでランチ
一通りランチアーノの取材を終えると、ちょうど昼時だった。そろそろ何か食べようと大聖堂脇の路地を進んでみると、1軒のレストランがあった。
Taverna del Marinaioだ。
この街に宿泊するわけでもなし、あれこれ探す時間ももったいないので、このレストランに入ってみることにした。
中に入ると、気軽に入るにはちょっと場違いな雰囲気、スーツ姿のスタッフが出迎えてくれる。しかし、気持ちよく出迎えてくれたので、思い切ってここでランチをとることにした。
アブルッツォに入ってからは、ずっと地元のモンテプルチアーノ・ダブルッツォ(赤ワイン)を楽しんでいた。
スルモーナやラクイラは、ラクイラ県に属するいわゆる山間の町なので、アブルッツォ定番の羊肉の串焼き・アッロスティチーニのような、肉料理が中心だ。だから、モンテプルチアーノ・ダブルッツォが食事によく合う。
しかし、アドリア海に面した葡萄畑で作っているのは、赤ワインだけではない。
アブルッツォのもう一つの代表的な白ワイン、ペコリーノ種がある。キエティ県に属するランチアーノは、アドリア海の高台の町であることもあり、シーフードがメインのこのレストランではペコリーノ種に期待がかかる。
「これはペコリーノ・ワインを試す絶好の機会だ」
席につくなり、スーツ姿のスタッフに「ペコリーノ種のワインはありますか?」と聞いてみたところうなづいて、すぐによく冷えたボトルを持ってきてくれた。それをグラスでいただくことに。
そして、前菜に自家製3種の燻製(サーモン、マグロ、メカジキを塩と砂糖でマリネして1日寝かせたのちスモークしたもの)、パスタはシーフードのリングイネと、プーリアのパスタ、オルキエッレをオーダー。
白ワインにしては重めながら、芳醇な味わいのペコリーノ・テッレ・ディ・キエティは、オーダーした食事にとてもよく合った。
アブルッツォには山・海の両方があり、それぞれの県でそのロケーションにあった郷土料理と、それに合うワインが揃っている。ランチアーノを知る日本人は、さほど多くはないだろう。しかし、ここは訪れる価値がある町だ。
そして、ランチアーノを訪れたら、是非Taverna del Marinaioに入ってみて欲しい。
思ったほど値段が高いわけではなく、気軽にランチで利用できる、おすすめのレストランだ。
アブルッツォを網羅するアドリア鉄道
近頃の日本での鉄道ブームには及ばないながら、旅先での様々な乗り物に興味は尽きない。
イタリア国内を網羅するFS(イタリア国鉄)にはずいぶん乗ったが、私鉄はまだまだだ。ランチアーノへは、ペスカーラから、アブルッツォの海岸エリアを網羅しているアドリア鉄道(正式名称:Ferrovia Adriatico Sangritana)で1本。
行きは、たまたま直通列車がなかったので、海沿いの町サン・ヴィートまで国鉄で行き、そこでアドリア鉄道に乗り換えてランチアーノまで。帰りは、ランチアーノからペスカーラまで直通の列車に乗った。
事前に購入したイタリア・レイルパスはイタリア国鉄用だったが、一部相互乗り入れをしているこの路線でも利用することができた。
ペスカーラからサン・ヴィートまでは、アドリア海のビーチが延々と続く、素晴らしい夏の風景を車窓から見ることが出来た。
せっかく夏にイタリアに来たんだし、「少しはビーチで楽しむくらいの余裕があっても良かった」と思った一日だった。
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