旅行業界の今後〜After COVID-19

旅行イメージ

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中が苦しんでいる。我が旅行業界もご多分に漏れず、というか最悪だ。今まで湾岸戦争やSARSなど数々の障害を乗り越えてきた旅行業界だが、航空会社がほとんどの路線を運休しているのでは打つ手がない。
そして、ここ最近になって「After COVID-19」という言葉が囁かれるようになった。実際にこの苦難を乗り越えた時、世の中はどうなっているのか?そして我が旅行業界は?
筆者は経済学者でも旅行評論家でもないが、自分自身とこの旅行業界の今後を分析して備えておこうと考えた。

1.「旅行代理店」から「旅行会社」の勘違い

2005年の旅行業法改正により、今まで主催旅行と言われていた、いわゆるパッケージツアーは、募集型企画旅行と受注型企画旅行という2種類に分類された。各言葉の定義はこの際割愛しておく。
この改正における最も大きな変更点は、「旅行業者の積極的・主体的関わりが推進された」こと。つまり、旅行会社が主体的に旅行商品の値付けをできるようになったということだ。
パッケージツアーなら、この点は理解ができる。航空券代や宿泊代、その他観光料金を総合してひとつにパッケージされたツアー代金を決めるのは当然だ。この改正は、航空券や宿泊券などの単品旅行素材についても、旅行会社が主体的に料金を決めることができるようになった。

例えば、ある旅館の宿泊代が一人1万円の宿泊クーポンを販売したとする。そして、旅館は宿泊代の数パーセントを販売手数料として旅行会社に支払う。この場合、ホテルが提示した通りの料金で販売しなければならない。これが今までの旅行業法による手配旅行の解釈だ。
しかし、この宿泊クーポンを企画旅行商品として販売するのであれば、この改正によって1万円の宿泊代を自由に料金設定して販売することができるようになった。極端ではあるが、1万円の宿泊代を2万円で販売してもいいということになる。

一方、自由に料金を設定できるようになった反面、その責任も大きなものとなる。手配旅行契約では適用されない、旅行業約款の募集型企画旅行の部(または受注型企画旅行の部)のうちの特別補償規定が適用になるからだ。
自由な販売形態を得た反面、責任も背負うことにはなったが、結果として旅行会社は自由な値付けによる商品販売の権利を得たのである。

しかし、この旅行業法改正は、それまで旅行手配を代理する「旅行代理店」を、あたかも「ものづくり」でもしているかのような、あるいは直接サービスを提供しているかのような勘違いをした「旅行会社」へと変貌させたのではないだろうか?というのが、個人的な考えである。

2.勘違いした旅行会社は逆境に弱い

2019年まで、旅行業界はなんだかんだ言って右肩上がりの売り上げだった。特にインバウンドに関しては、オリンピック特需とでもいうべき過去最大の売り上げを更新している。

しかし、同時に世界では様々なマイナス要素が増え続けている。例えば、地球温暖化によるゲリラ豪雨や、かつてないほどの大型かつ強力な台風が年に何回も発生するようになってしまった。それにより、たびたびフライトキャンセルや遅延が発生し、旅行業界はその都度対応を強いられるようになり、それが年々増えている。
過去に蔓延したSARSやMARSによる旅行需要の鈍化もあった。感染症予防のため、外務省から渡航自粛勧告が発せられれば、海外旅行をはじめとした余暇産業は最初にカットされる。そして、需要回復はその他の産業よりも半年から1年ほど遅れることが多い。

このような世界的な逆境が起こるたびに、旅行会社は旅行手配の変更や代替プランを強いられるのだが、その時募集型または受注型企画旅行の足かせになるのが、特別補償規定だ。もちろん、約款では天災やその他予期せぬ事由による変更に関する補償は免責となると書かれているが、実務面では大変な負担を負うことになる。急な台風や感染症拡大により、現地で足止めを食らっている旅行客の代替手配で、スタッフは深夜まで対応を強いられることだろう。こんな時に、働き方改革の定義など言っている場合ではないのが実情だ。

一方、手配旅行契約では第三条の「手配債務の終了」に書かれている通り、出発後の旅行客がこのような事態に巻き込まれても、その責を負う義務はない。もちろん人道的・心情的にはお手伝いするが、義務ではないのだ。
この解釈は、2005年の改正以前から旅行業法に書かれている従来の旅行業者のあり方、つまり「旅行代理店」であるという考えに基づいている。代理店は自らサービスを提供するものではなく、旅行サービスと旅行客の間で手配のお手伝いをし、その手伝いにおいて対価をいただく立場だ。直接の補償は各旅行サービスを提供する会社が行う。だから、このような逆境の時にも代理店という立場を崩さなければ、余計な負担を負う必要はない。

旅行サービスを販売する立場でありながら、いざという時に余計な負担を負う義務はないというのは心情的にどうかと思うが、年々増え続ける逆境の中で生き残るには、このような「逃げ」の余地を残しておかなければならないというのが本音だろう。




3.「エクスペリエンス」な旅行はなくならない

さて、本題に戻ろう。世界が新型コロナウイルスを乗り越えた時、旅行業界はどうなるだろうか?

個人的には、一言で言えば上述の逆、つまり「旅行会社」から「旅行代理店」へ戻るのではないかと考える。おそらく需要回復には相当の時間がかかるだろう。そうなると、体力のない会社は店じまいをしなければならないかもしれない。かくいう筆者の会社も、いつまで持つかは疑問だ。
どの旅行会社も体力をすり減らした後、特別補償規定に縛られた企画旅行を販売し続けることが果たしてできるだろうか?それよりも、パッケージツアーという概念がなくなってしまうほどの危機が待っているのではないだろうかと危惧してしまう。

そして、今後の旅行形態はどうなっていくのか?

個人的には現地に行かなければ体験できないもの、つまり「エクスペリエンス」を求める旅行が求められると考えている。「エクスペリエンス=体験」はなんでもいい。旅行客にとって必要な「エクスペリエンス」があれば、必ず旅行に出かける。
反対に、なんとなくの卒業旅行やハネムーンといった、「みんなが行っているから行っておこう」みたいな旅行は淘汰されていくだろう。また、絶景や世界遺産を見るだけの旅行なら、今後はバーチャル化によっていつでも大画面で見ることができるようになり、人々は出かけなくなる。まして、新型コロナウイルスが完全になくなったと言い切れる世界が来るとは限らない。そうしたら、景色を見るだけの旅行は「不要不急」の旅行と化してしまう。

一方、旅行客にとって必要なエクスペリエンスを求める旅行は、感染症拡大が収まれば必要にかられて出掛けざるを得なくなる。その時、その旅行形態はパッケージツアーが選ばれるだろうか?否、個々のニーズに合わせた旅行形態、つまり手配旅行に落ち着くことになると予測する。
極論を言えば、パッケージツアーだけを造成し販売している会社はいらなくなるということだ。

4.旅行が情報産業となるとき

ここから先は漠然とした考えであるが、もしかしたら旅行会社は旅行サービスとしての航空券や宿泊サービスを販売する会社ではなくなり、旅行に関する情報を提供する業種になるかもしれない。

すでにウェブサイトで、航空券やホテルの手配が簡単にできるようになっている。それに伴い、旅行会社の存在意義が問われて久しい。単なる旅行サービスの代替手配であれば、旅行会社は不要と考える人が格段に増えているのは事実だ。

そして、このような今までに例を見ない感染症によって、経済や物流の形態が全く変わってしまうことになった時、既存の概念では会社を存続し続けることはできなくなってくるだろう。

だが、旅行会社がずっと蓄積してきた旅行に関する情報は必ず必要であり、そしてそれは対価に替わる価値があると思う。それがどんな形になるのかはまだ想像もできないが、今後も旅行会社は必要な業種として残り続けると信じている。

だから、自分自身の会社だけでなく全ての旅行会社が、店じまいをせずに今はひたすら耐えて、その時が来ることを待ちたい。
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