網走「どこバス」とオーベルジュ「北の暖暖」で体験した質のいいオホーツク観光

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能取湖とサンゴ草

能取湖とサンゴ草

9月初旬、北見2泊、能取湖と網走1泊ずつの4泊5日という日程で、北海道旅行に出かけた。

そこで出会ったのは、持続可能な公共交通の構築を目指す網走の「どこバス」、そして温泉旅館とは一風異なる「オーベルジュ 北の暖暖」。

それぞれを利用することで感じた、自分にとっての「質のいい」旅のかたちについて考えてみた。

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旅のきっかけは三つ星に値するカーリングシトーンズ

本記事とは関係ないことかもしれないが、最初は旅のきっかけについて。

何が旅のきっかけになるかは、人によってさまざま。

  • 温泉にゆっくり浸かりたい
  • 美味しいその土地ならではのものを食べたい
  • どうしてもこの目で見てみたい

といったものが多いだろう。

だが、自分にとっての今回の旅のきっかけは、「カーリングシトーンズLive Tour 2022“Tumbling Ice”~シト目みに行こう!」を、カーリングの聖地・北見で観ること。前回の旅行も、きっかけは同じだった。自宅から近い東京エリアのライブではなく、あえて旅をして観に行く場所を旅先として選んでいる。

好きだからという理由もあるが、ライブ自体理屈抜きで楽しめ、さらにライブを観るために旅することによって、五感全てを満たしてくれるこのバンドは、自分にとって、まさにミシュランの

「わざわざ旅行する価値がある」

に値する。旅の「きっかけ」ではなく、「目的」といってもいい。

これは、巷のパッケージツアーではなかなか叶えてもらえない、自分だけのオリジナル旅だ。

あいにく、ライブに関する写真は一枚も撮っていないので、音楽評論家・平山雄一氏のライブレポートを貼っておく。

網走バスの「どこバス」は新たな観光インフラのモデルとなるか

さて、ここからが本題だ。

北見で2泊したのち網走エリアへ移動し、そこから能取湖(「のとろ」と読む)畔の「能取の荘 かがり屋」へ移動し1泊。翌日は網走エリアへ戻り、そこから「オーベルジュ 北の暖暖」へ移動する。網走駅から車で10分程度なので、当初はタクシー利用を考えていた。

網走は、駅前に中心街が広がっているわけではなく、港方面へ徒歩で15〜20分程度かかる。また、呼人駅・網走湖周辺エリアへの移動も、車での旅行をしていない旅行客には、なかなか移動しにくい距離だ。市内には路線バスが走ってはいるが、本数も少なく、観光には使いにくい。

そんなとき、たまたま網走駅の観光案内所で、網走バスが提供する新交通サービス「どこバス」のパンフレットを入手した。

どこバス」は、網走市と網走バスが行なっている実証実験。通常の路線バスは、地元の人たちの朝夕の通勤・通学・通院時間帯以外は本数が少なく使いにくいことや、今後のさらなる利用者減少を踏まえ、持続可能な公共交通の構築を目指して、時限的に行われているもの(2022年4月1日〜2023年3月31日)。

規定の路線はなく、予約状況・目的地までの最適ルート設計はAIが行い、効率的な移動ができる。

そして、これは網走市内エリア(Aエリア)と呼人駅・網走湖周辺エリア(Bエリア)間を観光する旅行客にも、とても便利なものだ。

使い方はとても簡単。予約センターに電話し、自分が今いるバス停(どこバスのバス停は両エリアに細かく設置されている)と、どこまで行きたいかを伝えると、5〜20分程度でワゴンタイプのミニバスが来てくれる。同エリア内はどこでも1人1回500円、エリア間を跨ぐ場合は700円と割安だ。

今回最初に利用した、網走駅(Aエリア)からオーベルジュ北の暖暖(Bエリア)への移動は2人で1,400円、タクシーよりは高いかもしれないが、1人なら確実に割安となる。すっかり気に入った筆者は、翌日もあちこち移動するたびに電話して、利用しまくった。

このシステムの良さは、

  • 旅行客・地元の人双方の足代わりになること
  • 高速バスや路線バスほどではない距離を無尽に繋いでくれること
  • 将来の各観光地の新たな観光インフラ・モデルとなるだろうこと

どの観光地も、意外と交通アクセスが悪いものだ。それをこのようなシステムでカバーすれば、車を利用することなく自由な旅行ができるだろう。そして、全国的に広がれば、観光地における交通渋滞の緩和、さらにはCO2削減にも一役買う、文字通り持続可能な観光インフラとなるに違いない。

レンタカーを借りることなく、観光地を自由に移動することができる「どこバス」は、将来の国内観光を変えることになるかもしれない試金石となるだろう。

残念なのは、2023年3月までの時限的な実証実験であるということ。ぜひ、そこで終了することなく続けてもらいたいものだ。

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「旅館の食事が多い」問題を解消する「オーベルジュ」という宿泊スタイル

オーベルジュ北の暖暖

オーベルジュ北の暖暖 緑の庭園と全景

「オーベルジュ」とは、フランス発祥の宿泊付きレストランのこと。フランス発祥、というと、とても高級でお値段も高額というイメージがつきまとうが、「オーベルジュ 北の暖暖」は、けっしてそんなことはない。

コンセプトは、「あなたの実家でありたい」

久しぶりに帰った実家で感じる懐かしい匂いや、飾らない言葉に心が落ち着く、そんな「宿」を目指している。

値段も、特別目が飛び出るほど高いわけではない。今回の旅行でいえば、前日に宿泊した「能取の荘 かがり屋」とほぼ同料金だった。

しかし、両宿泊施設では、その食事スタイルが全く違っていた。

2020年8月、SNS上で物議を醸した「旅館の食事が多すぎる」問題。夕食時にテーブルいっぱいに並べられた食事の多さに、食べきれないシニア層の利用者が「廃棄前提」と呟いたことに始まる。このことはホテル評論家の瀧澤信秋氏が書いた、以下記事を参考にしてほしい。

筆者自身も若くはないので、旅館のものすごい量の食事には辟易することさえある。

今回宿泊した「能取の荘 かがり屋」はまさに典型。後日Googleの口コミを見てみたら、この旅館の食事についてもさまざまな意見が書かれていた。

能取の荘かがり屋の食事

能取の荘かがり屋の食事 これ以外に毛蟹と名物キンキの煮付けがつく

しかし、旅館側の考え・思いがあることも確かだ。おもてなしの精神や「量もごちそうのうち」、「旅館=和食」が大前提で提供されるため、懐石料理の基本をもとに提供されることなど。

筆者としては、日本の旅館は「旅館=和食(懐石料理)」という固定概念に囚われすぎではないかと思う。

それをいい意味で打ち破ってくれたのが、「オーベルジュ 北の暖暖」。

名前にオーベルジュ、とついているくらいだから、まるっきり洋式なのかと思いきや、露天風呂があったり、朝食は和朝食であったり、ホテルや一般的なオーベルジュとは一味違う、居心地のよさを実感できる。

肝心の食事については、楽天トラベルの宿泊プランで予約した「【食のお供にワインペアリング】創作フレンチフルコースディナーとグラスワイン3杯付」というもの。その食事量は、一皿一皿ゆっくり出されるため量の多さを全く感じず、最後まで心地よく食事することができた。

以下はコース料理の画像。

北の暖暖コース料理1 北の暖暖コース料理2 北の暖暖コース料理3 北の暖暖コース料理4 北の暖暖コース料理5 北の暖暖コース料理6 北の暖暖コース料理7

きっと旅館の食事も、このように一皿一皿順に出されれば、誰もが食べ切れるのかもしれない。それを、豪華さのためテーブルいっぱいに一度に広げられては、そこで自分の食欲に自信がなくなり、見るだけで満腹感を感じるのかも。それに、一度に出されれば、温かいものも冷たくなってしまうこともある。

大きな旅館でこのようにサーブしていては、スタッフがいくらいても足りなくなる。一方、「オーベルジュ 北の暖暖」はごく少数スタッフで運営しており、施設内移動でも、ほとんどスタッフとすれ違うことがない。食事時も、フロントにいたスタッフが案内してくれ、テーブルでは料理スタッフとフロアスタッフ2人で対応していた。

ここでも、宿泊客に余計な気遣いをさせない、「実家」を感じさせるホスピタリティがあるのだと感じた。

旅館ごとに「できる、できない」ことはあるかもしれない。それを解決するには、常識にとらわれず、どれだけ宿泊客のことを考えているかにかかってくる。

新しい旅のかたちは「質がいい」こと

旅行から帰ってきてしばらくして、東洋文化研究家アレックス・カー氏の以下のような記事を読み、旅行業界にいるものとして同感した。

日本よ、「B級観光」から脱せよ アレックス・カー氏 - 日本経済新聞
初来日から60年弱。日本の魅力や観光業界の変遷(へんせん)を追い続けてきた東洋文化研究家、アレックス・カー氏は現在の日本の様子をどう捉えるのか。「日本はいつまでも留年だ」。そんな言葉に込められた意味とは。――カーさんは日本に来られてから60...

今回の旅行で感じたことは、いかに自分にとって「質がいい」ものであるかということ。

網走の「どこバス」は、広大な北海道で内地の人が「相当な距離」と感じる距離をカバーしてくれる、理想的な観光インフラ。昼呑みしてもレンタカーを運転することなく、観光地を自由に移動できることは、自分にとって「質がいい」。

また、「オーベルジュ 北の暖暖」は、たびたび旅館の食事の多さに辟易していた筆者にとって、新しい宿泊スタイルであった。それも、完全な洋式スタイルではなく、「実家」を思わせる寛ぎやすさは、やはり「質がいい」。

記事に書かれているように、A級とは、何も富裕層向けの、値段ばかり高いものではない。自分にとって、また旅行客全てにとって心地よさを感じさせる「質」の良さがA級なのだ。

旅館の食事に限らず、日本の観光業界は固定概念に囚われ過ぎているのかもしれない。また、ホスピタリティという言葉が観光業界に浸透して久しいが、真のホスピタリティを理解している業界人は、どれだけいるのだろう。ややもすると、「おもてなし」が過剰になってしまってはいないだろうか。

コロナ禍からようやく旅行が戻ってきた今、旅行に飢えていた分、旅行者の目は以前より厳しくなっているはずだ。自分自身も同じ業界人として、自分の仕事を見直してみたい。

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