HTBの人気番組「水曜どうでしょう」は、出演者大泉洋と鈴井貴之がいうように、れっきとした旅番組である。その中の放送当初からの企画「サイコロの旅」は、サイコロの目の出た数によってボードに書かれた移動手段や目的地を決め、その通りに移動するという、ある意味究極の旅のスタイルだ。
目的地を決めない(彼らの目的地はいつも札幌に帰ることだが)で、サイコロの目のままに自由に旅をするというのは、旅行業に携わるものとして憧れさえ抱く。
そして、番組を見ていると、どうしても深夜バスに乗りたくなるのだ。
今回の道南の旅の発端は、「水曜どうでしょう」と同じHTBの看板番組「おにぎりあたためますか」で紹介された、温泉旅館矢野の「のりだんだん」だった。
前回まででこの度の目的は果たしたのだが、「水曜どうでしょう」の究極の旅のスタイルを、今回の旅にも取り入れたくなり、東京までの帰路に深夜バスを入れてみた。
函館 辺見旅館~続き
旅の目的を十分果たした後の宿泊地として、たまたま空きがあった食事が自慢の函館・辺見旅館を、十分な下調べもせずに1泊朝食付で予約してしまったことは、前回触れた通り。
知らずに食さなかった旅館の夕食がどんなものか、ホームページの写真を眺めるだけになってしまった。
しかし、朝食にもこの旅館の美食はふんだんにちりばめられている。
出発前に発生した台風17号は、とうとう北海道のすぐ近くまで迫っていた。前日まで何とか天気はもったものの、最終日は朝から窓を打ち付けるほどの雨。最終日の行動を気にしながら、食堂へ向かう。
台風の影響でキャンセルが出たと女将から聞いていたので、食堂には筆者たちともう一組しかいなかった。自由にテーブルに座って、用意を待つ。
ほどなくして目の前に朝食が運ばれてきた。それが下の写真。
中でも、市場よりも早く提供しているというイカ刺しは、抜群の新鮮さだ。全く臭みのない、とろけるようなワタと一緒に頂く。
そして松前漬。これまでの道中で何度も食してきたが、それぞれ少しずつ違う。そして辺見旅館の松前漬も美味だった。
バスとフェリーの「函館きっぷ」
雨は弱まることなく、風も強くなってきた中、辺見旅館をチェックアウト。
この日の当初の予定は、函館をぶらぶら散策しながら、夕方フェリーターミナルへ移動するというものだった。
しかし風雨は弱まることはなく、だんだんと強くなってきた。女将にフェリーと深夜バスで帰ることを話すと、フェリーターミナルまでのシャトルバスが駅から運行していることを教えてくれた。感謝感謝。
ところで冒頭で触れた深夜バスについて。
北海道から東京までは、さすがに高速バスは運行していない。津軽海峡を渡ることができるのは、在来線はなく北海道新幹線のみ、あとはフェリーだ。
この移動について探していたところ、青森の弘南バスが「函館きっぷ」なるものを販売していた。自社バスで運行できない区間をフェリーでつなごう、という企画商品だ。これで函館~東京間をつなぐことが出来る。
フェリーはスタンダードクラスだが、青森港~東京のバスは、3列独立シートの「津軽号」と4列の「パンダ号」から選ぶことが出来る。
津軽号はカーテンで各シートを仕切り、シートもかなり倒せるようなので、迷わず津軽号のほうを選んだ。東京まで8~9時間くらい、4列シートはきついだろうと思ったのだ。
実は旅の相方は、船にめっぽう弱い。
しかし、以前出かけたフィジーで乗船したフェリーは大型のもので、その時は全く酔わなかった。スタビライザーがある大型のフェリーなら、大丈夫のようだ。
だから、この「函館きっぷ」に含まれる津軽海峡フェリークラスなら問題ないだろうと考えて、この「函館きっぷ」利用に踏み切った。
話は戻るが、辺見旅館を出た後、朝市くらいなら雨もしのげるだろうと出かけてみる。しかし、朝市までのわずかな道のりで横殴りの風雨になってきたためかなり濡れてしまった。
朝市を一通り見て、駅ビルの中のタリーズへ避難する。
函館~青森間のフェリーは1日に何本も運航していて、「函館きっぷ」でバスに乗り継げるフェリーは夕方発だった。
朝からフェリー会社に電話して確認したところ、この日の青森行きは通常通り運行しているとのこと。しかし夕方に向けて台風は最も接近するので、予約を変更して早くに北海道を出ようということになった。
タリーズを出て昼食用にどこでも食べることが出来そうなサンドイッチを買い込み、女将から教えてもらったシャトルバスに乗ってフェリーターミナルへ。
津軽海峡フェリーのターミナルはかなり大きく、中はまるで空港のようなスタイリッシュな造りだ。
ターミナルに到着してカウンターへ向かい、「函館きっぷ」に含まれるフェリーを昼の便に変更したい旨を伝えると、すぐに変更に応じてもらえた。昼の便の出発案内は間もなくで、すぐに3階へ向かう。
フェリーへの乗船も、まるで空港で機内へ入るときのようだ。
船内に入り、スタンダードクラスのいわゆる雑魚寝部屋の空いているところを探し、スペースを確保したところで出発した。
思いのほか揺れない、これなら相方も大丈夫だろう。
そう思ってデッキ階へ行ってみたが、あいにくの強風のためデッキに出ることが出来なかった。船酔いする人にとって、外の風を受けられないのはきついだろう。青森に着くまでおとなしくしているしかない。
しかし湾を出ると、船はゆっくり、少しずつ揺れ始めた。進行方向に向かって「どんぶらこ、どんぶらこ」といった揺れが前後に続く。乗り物酔いは子供のころで卒業した筆者も、これは相当きついと感じた。
相方はというと、まだ大丈夫のようだが、少しずつ気になりだしたのか、スタンダードの雑魚寝部屋で昼寝をして過ごすことにしたようだ。
青森を堪能して深夜バスへ
辛抱の3時間40分、やっと青森港に到着。こちらのターミナルは函館よりも小ぶりで、とくにゆっくり過ごすというところでもない。
「函館きっぷ」のバスはこのターミナル発着なので、後で戻るために時刻表を確認したのち、青森市内へバスで移動する。
青森は未踏の地だ。すっかり元気になった相方とともに、青森市内の美食を求めて散策する。こちらも雨は降っていたが、函館ほどの風雨はない。
駅の向こうには、「青森ベイブリッジ」と「A-Factory」という青森のりんごをはじめとした物産を紹介する建物や、ねぷたを展示している「ワ・ラッセ」という建物があったが、今回はそれには興味はない。
アーケードを一通り歩き、やはり海の幸が良いだろうと寿司屋を探すことにした。さすがに寿司屋は多い。その中で、店前にメニューが掲げられていてリーズナブルそうな、鮨処「あすか(新町店)」に入って見た。
回転寿司を中心としたチェーン展開の中で、この新町店はカウンターでいただく普通の寿司店だ。にもかかわらず、値段は回転寿司並み。いい店を見つけたと思った。
早速その日のお勧めを刺身で頂く。
カウンターの奥には、ねたのお勧めのほかにかなり日本酒の札が掲げられれていた。カウンターには日本酒だけのメニューも置いてある。
「これはかなり日本酒に凝った店なのだな」と思い、さりげなく進めてくる板前さんのアドバイスどおりに頂いてみる。
そういえば、青森の地酒は何だか知らなかったが、程よい相槌のように「こんなのはどうですか?」と薦めてくるのが気持ちよかった。
これで東京までぐっすり眠って帰れそうだと思いながら、再びフェリーターミナルへ戻る。バスはすでに走っていなかったのでタクシーに乗ったのだが、かなり安い。
ターミナルで出発までの時間をつぶし、やっときた津軽号に乗ったとたん、眠気が襲ってきた。これでは「水曜どうでしょう」的な旅を楽しむ余裕もない。
あっという間に東京へ、台風一過のような蒸し暑さのバスタ新宿に到着した。
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