なぜ人は手数料を支払いたがらないのだろうか?JTBが断念した「相談料徴収」

2019年4月、旅行会社最大手のJTBが旅行相談料の徴収を試験的に行うと発表して半年がたつ。旅行業法で定められている正統な報酬としての相談料だが、大半の旅行会社がこの徴収に二の足を踏んできた。そこに最大手がサービスへの対価を正当化させ、市場に浸透させようと行ったものだ。当ブログでもこの行動に大いに賛同し記事を書いた(以下記事を参照)。

JTBとやよい軒の決断をどう思うか?

平成の最後に、JTBとやよい軒が話題に上がった。2つの話題に共通するキーワードは「無料から有料へ」である。前者は同業者でもあるため特に気になったのだが、世間の人達はこの話題をどう思っているのか。

しかし…、

JTBはわずか半年で旅行相談料の徴収を断念した。理由は「消費者の理解への壁が高かった」ということだ。

法律で正当に定められている報酬だが、なぜ世間ではこの「相談料」という手数料を支払いたがらないのだろうか?そして、このことがこの先の日本にどのような影響を及ぼすのだろうか?

1.正当な対価としての旅行相談料

旅行相談料は、国家資格である旅行業務取扱管理者の管理のもと、旅行に関する相談についての手数料を定めたもの。どの旅行会社でも、旅行業約款(旅行業法をもとに各会社で定めた契約に関する取り決め事項)の一部として消費者に見えるように店舗に掲げることが義務付けられている。通常30分〇〇円、日程作成に○○円、と詳細に記載してある。

旅行業法は、第一条(目的)に「この法律は、旅行業等を営む者について登録制度を実施し、あわせて旅行業等を営む者の業務の適正な運営を確保するとともに、その組織する団体の適正な活動を促進することにより、旅行業務に関する取引の公正の維持、旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることを目的とする。」と書かれているように、正しく消費者へ旅行サービスを提供できるようにするために定められたもの。幾度かの改定があり、現在の事情にも適応しているものと考える。

そしてこの法律にのっとって適切な営業をするために、国家資格を持った旅行業務取扱管理者が各店舗に必ず常駐し管理している。その旅行業務取扱管理者は旅行のプロで、プロによる相談は「コンサルティング」だ。グアムやハワイのパッケージにコンサルティングは不要だろうが、消費者が納得し帰国後も満足感が得られる旅行を提供するには、コンサルティングが必要だと筆者は考える。

旅行相談料は、プロフェッショナルに相談し有益な情報を得られることへの対価だ。

また、相談の結果旅行契約締結に至った際は、この相談料は旅行費用の一部に充当されると明記されている。

つまり、旅行相談料は有料ではなく、実質無料だ

旅行カウンターを訪れ、ちょっと聞きたいくらいの気持ちでスタッフに声をかけたのに相談料を請求された、などということを想像すると、おそらく一般の消費者はこの「旅行契約締結の際は相談料は無料」という事実を知らないことが多いのではないだろうか?

2.弁護士業界や海外の手数料事情

相談料を徴収する業種として代表的なのは、弁護士だろう。法律相談で弁護士事務所を訪れると、旅行相談同様30分5,000円程度の相談料を請求される。これも法律のプロである弁護士が対応することへの対価という点では、旅行相談料と何ら変わらない。

しかし、最近TVのCMでよく見かける通り、弁護士相談でも相談料無料という風が吹いている。但し、全ての相談において無料としているのではなく、比較的儲かる事案については相談料を無料としているらしい。ちょっといやらしい話だが、手数料が商売の基本となる弁護士業界で生き残るための策のひとつなのだろう。

また、海外の手数料事情は日本とは違いシビアだ。

筆者が運営する旅行会社では、直接海外のサービス提供会社から仕入れる場合が多いが、その大半はサービスフィーと呼ばれるものが最初から請求される。
「サービスフィー」ということは、文字通りその会社の取扱手数料だ。相談料とは違うが、形がない旅行サービスにおいて手数料が正当な対価という点では変わらない。

そして、海外の各会社はそのサービスフィーを値引いたり無料にすることは絶対にない。それは提供するサービスに誇りを以て仕事をしていることや、一定の高いステイタスを持った職業だという自負があることの表れだと感じる。

3.日本で手数料を支払いたがらない事情について

さて、ここからは筆者の持論なのだが、サービス提供者は報酬を得て行っているサービスに誇りを持てず、消費者はプロであるサービス提供者を尊重していないことが、手数料を支払われないことにつながっているのではないかと思う。

サービス提供者は、前項の最後で触れたような「一定の高いステイタスを持った職業」に就いているという誇りと自負を持って仕事をしている人が、果たしてどれだけいるだろうか?

一方消費者側においては、その道のプロフェッショナルに安心して依頼できるという尊重の念があるのだろうか?

お互いを尊重せず仕事への誇りも持てないという現象が、日本において手数料徴収が出来ない原因のひとつとなっているのではないかと考えてしまうのである。

旅行業界を例にとると、海外においてガイドはステイタスの高い職業のひとつであり、収入も良い職業だと聞いた。
ところが、日本において人気職業のひとつである添乗員のステイタスは、限りなく低い。大げさに言ってみれば、旅行中の小間使いだ。加えて給料が低い。

また、通訳も海外においては非常にステイタスの高い職業とされている。そのため、仮に視察などの渡航において通訳を手配しようとすると、空き状況を確認しただけでその期間の予定を一方的に入れてしまい、そこで費用が発生するという事例が過去にあった。通訳側の事情としては、自分の仕事に自負があり、その期間自分をキープするには費用を支払って下さい、という気持ちなのだろう。

この2つの例を日本の旅行相談料という手数料に当てはめると、世界の諸事情とはまるっきり反対のことが日本で行われている。

消費者側は旅行相談を軽く考え、たかだか相談だけでお金を支払うなんてばかばかしいと思い(そこにプロであるスタッフを尊重する姿勢はない)、旅行会社側は世の中何でも無料なのだから、相談程度でお金をもらうことをためらってしまう(報酬を得て仕事をしているという自負がない)。

自身のサービスに自信があるのなら、正当な報酬を請求すればよい。満足した旅行を提供してもらえると感じたなら、相談の時点で手数料を支払えばよい。繰り返すが、支払った相談料は契約後は費用に充当されて無料となるのだから、なんで支払うことをためらう必要があるのだろう。

話を最初に戻すと、JTBは今後個々のニーズにあった提案をしていくという、なんともわかりにくい方針に変えていくらしい。
しかし、業界最大手がこの程度では、旅行業界もその他の業界においても、低収入のまま不景気が続くばかりだ。この記事を読んでいただいた方も、自分の職業に当てはめてみて、得られるはずの手数料が会社の方針によって得られていなかったら、一度考えてみたほうが良いと思う。

そしてもうひとつ、なんでも無料にして消費者の気を引くような企業に勤めるよりは、自信を持ってサービスを提供し正当な対価を得られるよう、「個」で仕事をすることがこれからの仕事のあり方のように感じている。
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