普通の旅行会社員がSOHOで起業・継続できている訳22 - 旅行業界の給与水準はなぜ低い?

【イメージ】
旅行業界の給与及び収入は、他業種と比べると低水準だと言われる。ある就職関連サイトの調査による主要25業種の平均年収と生涯賃金は中の下レベル。これも大手を含めた平均なので、ほとんどの中小旅行会社はもっと下のレベルだろう。
今回は、いまや定説となり就活している学生さんも気になる旅行業界の低収入について、そして業界が取り組むべき日本の旅行業界の体質改善について書いてみる。

旅行業界の低水準収入の原因は収益率の低さ

そもそも、なぜ旅行業界の給与は低水準のままなのだろうか?

筆者自身がこの業界に入ったときの初任給は、大卒ではないので手取りで10万円を下回った(かなり前の話だ)。現在でも、大卒の初任給は税込みで15~17万円程度といわれている。ここから税金、社会保険関係、その他もろもろ引かれると大した金額にならない。

原因はただ一つ、収益率が圧倒的に低いこと。

日用品と違って旅行商品は単価が高いので、さも儲かる業種なのだろうと思われがちだが、このシリーズで常々書いているように、旅行業は本来「代理業」である。自らモノを作ったりサービスを提供する業種ではない。航空会社やホテルなど他業種が提供するサービスに、自分たちの手数料を上乗せして販売しているだけ、それが代理業だ。

例えば、自らパッケージツアーを造成・販売している第1種旅行業の旅行商品の収益率は、およそ25~30%程度だろう。「だろう」というのは、筆者は大手に在籍したことがないので、はっきりとした数字は分からないということだ。また、たとえ大手でもカウンタースタッフなどは、おそらく自社の収益率など知ることはない。

それだけならまだよい。上乗せする手数料は自社で決めることができるのだから、社員全員が幸せに暮らせる給与をもらえるよう手数料を設定すればいいのだから…。

しかし、問題はそう簡単ではない。今の日本企業が陥っている現象が、ここ旅行業界にも早くからあった。

それは、他社との競争の結果、「格安旅行」を作ってしまったこと。

1980年代、格安航空券が販売されるようになり、それをもとに、旅行商品はどんどん安価になっていった。適度な競争によるダンピングなら、消費者も喜ぶのでより市場は活性化するはずだ。
しかし、この業界は世の中が不安定になるたび、真っ先に節約の対象となる。最初にバブル崩壊、湾岸戦争、2000年代に入ってイラク戦争、またSARSや鳥インフルエンザ、インドネシアやタイの大地震による津波被害、そして東日本大震災…、思い出しただけでもこのような要因により、すぐに旅行業界のようなサービス業は消費から遠ざけられた。

マイナス要因が発生するたびに、旅行業界はより安くして旅行に出かけてもらおうとした。しかし、「旅行業は代理業」、自ら勝手に料金を下げることなどできない。航空会社も同調して値下げをしたが、結局自らの収益を削って販売するに至った。それが「格安旅行」だ。

完全に薄利多売のシステムに陥った格安旅行ばかり販売していても、一向に旅行業界の給与水準は上がるはずがない。

薄利多売はブラック企業を生む

表向きは華やかな旅行業界、しかし実際はほとんどの会社でサービス残業を行ってきた。頭文字が"H"の格安旅行会社大手などは、ブラック企業という言葉が出来る前から、3か月で社員はやめてしまうという噂までが業界内で飛び交った。

以前筆者が業界の方たちと視察旅行でモーリシャスへ行ったときのことだ。一日中あちこちホテルを見て回り、夜になってやっとバーで談笑していた時、自然と普段各社の仕事についての話題が出た。筆者よりだいぶお若い企画担当の女性参加者は、毎日が終電間際まで仕事をし、残業代は最初の1時間しかつかないというハードな仕事っぷりを披露した。聞くと他の参加者もほぼ同じような状態だった。筆者はすでに独立していたので、自分自身で仕事を管理していたこともあり、「まだこの業界はこんななのか?」と思ったほどだ。

収益率が悪いために社員に十分な給与を支払うことが出来ず、社員はそれを補うため残業をする。しかし、残業しただけ残業代が全てつくわけではない。

それでも、なぜか旅行業界の人達はみんな目がキラキラしている。それはとことん旅行が好きで、たとえ給与に満足できなくても好きなことに携わっていられる時間が好きな人たちばかりということだ。これは一方ではとても良いことで、一方ではとても悪質なこの業界独自の気質ともいえる。

「好きなんだからサービス残業もなんのその」では、業界の収益率の低さを改善することなどできない。

この視察旅行は、主にツアー造成に携わる人たち向けだったので、このようにディープな話を聞くことが出来た。しかし、中小の旅行会の場合社は、もっとシビアだ。
自社でツアー造成を行わず、もっぱら販売だけをしている中小旅行会社は、大手が造成したパッケージツアーを代売して利益を得る。その際の販売手数料(コミッション)は、10%が通常だ。例えば、10万円のハワイ6日間のパッケージツアーなら、それを代売した利益は10,000円ということになる。
また、航空券や鉄道乗車券など、単体チケットのみを販売していることもあるが、この場合は2~5%程度だ。現在はさらに下がり、国際航空券は航空会社から手数料が出ないばかりか、発券手数料を逆に徴収される。こんな手数料で社員が満足する給与を支給するには、死ぬほどこれらを販売しなくてはならない。

当然、ツアー造成会社同様中小の販売専門旅行会社でもサービス残業が続くだろう。

ダンピングするな、自社商品に自信を持て

では、具体的にどうしたら、サービス残業もせずに低賃金から抜け出せるか?

その答えのひとつは、「他より1円でも高かったら値引きします」みたいな販売方法をやめることだ。

どうしてどの業界も、他社と比べて高かったら値引きするのだろう。筆者は独立してから一度たりともサービスで値引きしたことはないが、開業当初はかなり薄利で販売をしていた。始めたばかりの頃は、会社を知ってもらうことが第一で、利益は二の次だったからだ。自分達が食べることが出来れば、それ以上の利益は望まない、という考えて始め、余計なコストを極力そぎ落とすためのスタイルとして、SOHOで会社運営をしてきた。利益が少ない代理業で最もかかるコストは、人件費だ。その答えが、SOHOだった。

しかし、いつまでも薄利のまま続けるわけにはいかない。そこである時、考え方をガラッと変えた。

今までの収益率を2倍に引き上げたことだ。

そもそも一般的な旅行商品の手数料が10~15%と、誰が決めたのか?自分が自信をもって仕入れてきたもので自信をもってプランニングした旅行を、なぜ納得のいく金額で販売しないのか?

そういう考え方に変えた。当然、同じような商品は他社よりだいぶ高くなる。少しでも安いものを探している人にとっては、魅力的ではないだろう。

2倍の収益率は、例として筆者が運営する会社の事例にすぎないが、2倍にこだわる必要はない、自社で満足する利益を獲得することが、この業界に必要ということだ。
これが全ての旅行会社に通用するかどうかわからないが、筆者が考える、旅行業界が低水準給与の体質から抜け出す答えのふたつめだ。

旅行業界が取り組むべき課題

上記に書いたような、他社と比べることなく自社で満足する収益を獲得するという考えは、すぐに実行できるものではない。

格安戦争の発端は、あの業界の風雲児が始めた格安旅行会社だった。始めたこと自体は間違いではない、それに追随した各旅行会社と、それに恐れをなした大手までが格安旅行に手を伸ばしたことが間違いだったということだ。

だから、まずは業界のリーディングカンパニーが、考え方を改める必要がある。格安戦争が始まった経緯を巻き戻して、今度はリーディングカンパニーたる大手が、自社社員が満足する給与をもらえるような収益率に戻していくことだ。ともすると、「格安旅行」はなくなるかもしれない。それは、プライベートな部分では筆者も困る。

しかし、どんな商品も格安のままでは日本経済は立ち戻らない。そう、これは旅行業界に限ったことではなく、社会全体が陥っている今の日本企業すべてに言えることである。

【読んでもらいたい関連記事】

JTBとやよい軒の決断をどう思うか?

平成の最後に、JTBとやよい軒が話題に上がった。2つの話題に共通するキーワードは「無料から有料へ」である。前者は同業者でもあるため特に気になったのだが、世間の人達はこの話題をどう思っているのか。

スポンサーリンク

コメント