SOHOによる旅行会社の作り方16 - 独立起業の理想と現実

旅行業を志して旅行会社に入社したら、一度は夢見る「独立起業」。旅行の学校に行っていた頃、国家資格の「旅行取扱管理者」さえ取ってしまえば自分で旅行会社が出来ると単純に思っていた。旅行業は普通の仕事と違い、昔から独立起業を考えやすい業種だった。
「SOHOによる旅行会社の作り方」シリーズは、旅行会社に勤務して約17年で独立した筆者の体験談である。独立してからすでに会社勤めと同じくらいの年月がたった。しかしこの間、思い描いていた「独立起業で旅行会社」という理想と、当然起こり得る現実が常に隣りあわせだった。

旅行業での人気は旅行企画

他業種から見たら、誰もが旅行業でやりたい仕事といったら"添乗員"だと思うかもしれない。自腹を傷めず会社の経費で海外旅行が出来て、なおかつ世界各地の観光地をさっそうと歩く姿は、旅行業の中の花形に見えるかもしれない。
また、旅行業を志す人は基本的に「人をお世話したい」と思う人が多い。添乗員はツアー参加者全員に気を配り、旅の最後に「楽しかった!」「どうも有難う」といってもらえることに喜びを感じる。まして、「次の旅行もあなたが添乗員だったらいいわ!」などといわれた暁には、添乗員冥利に尽きるというものだ。

実際でも添乗員は確かに人気だろう。しかし、「旅行の楽しみは出発前が50%以上」といわれるように、旅行は計画しているときが最も楽しいはず。そして旅行業を志す人は皆、旅行会社の企画セクションにこそ配属されたいと思っている。自分でオリジナルの旅行をプランニングし、それをツアーとして販売する。そこにどれだけオリジナリティが出せるか、なんて思うことだろう。
実際の旅行企画は、考えられた日程をどれだけリーズナブルにお客様に提供できるかどうか、数字とのにらめっこばかり。そして、そのために航空会社や宿泊機関など、旅行サービス提供機関への料金交渉が主な業務だ。
依頼された希望を出来るだけ日程に詰め込み、同時に依頼者から提示された予算内に収まるよう計算する。A航空の航空券が高ければB航空に変更し、複数都市周遊なら滞在都市ごとにホテルのグレードにメリハリをつけることで少しずつコストダウンし、それでも旅行者にとってはメリハリがついた旅行として楽しまれる。こういったアレンジを日々机上で行っていれば、たとえ数字とのにらっこが続いても、妄想の中で世界中を旅している気分だ。

とにかく、筆者自身でさえ今でも旅行企画はやっていて楽しい仕事だと思っている。

現実は毎日突きつけられる

しかし、独立して自分で会社を運営していくとなると、楽しい仕事ばかりしていればよいというものではない。このシリーズで書いてきたように、利益率が低い旅行業でいかに長く会社を存続させることが出来るか?それには、徹底したコストダウンが必要だ。
旅行業は添乗員やカウンタースタッフなど「ヒト(人)」が財産、しかしそのためには人件費がかかる。コストダウンと人件費を照らし合わせたら、SOHOスタイルでスリムな旅行会社が自分には的確な形だと考えた。

起業した頃、SOHOという言葉は既に世間に浸透していたが、旅行業でSOHOというのはあまり聞いたことがなかった。同時に業務のネット化が進み、今まで人が行っていたことがインターネットで出来るようになってきた。だからリアルな「ヒト(人)」が必要な部分は自分が行い、それ以外はネットを駆使して営業することで、SOHOスタイルでも十分旅行業をやっていけると考えた。

常々書いているように「自分でできることは自分で」行う、それは毎日旅行を企画しているだけの職人気質では済まされない。人件費を抑えたSOHOスタイルなのだから、総務も経理も営業も企画も全て自分で行う。今まで知らなかった業務が増え、一日の中でどのように各業務を割り振っていくかが問われる。

「〇〇〇くらぶ」にならないために

そして旅行会社運営の最大の難関は、キャッシュフローだ。支払は「末締め翌月払」のように全ての支払日が月末だけ、というわけにはいかない旅行業の経理は、キャッシュフローが難しい業種でもある。
昨年、旅行業では大手といわれていた会社が、航空券代を支払うことが出来ずお客様を出発させることが出来なくて最後には倒産したことがあった。ニュースでも取り上げられたので、覚えている方も多いだろう。内情はわからないが、この会社の倒産も旅行業独自のキャッシュフローが原因の一つとみられる。

予約が入る度に、その手配に関わる支払いがその都度発生する。近年は予約後一定期間内に航空券を発券するため、航空会社に支払わなくてはならない。宿泊代やその他現地でかかるサービスも、予約したらすぐに支払となる。これが毎日あるため「末締め翌月払」という概念は、旅行業にはない。

長年経理業務に携わった人でさえ難しいであろう旅行業のキャッシュフローを、旅行業務しかしたことがない筆者がどう対応するか?

答えは「公明正大に」だ。

お客様から預かったお金は、そのお客様の手配だけに使い、利益をプールしていく。そしてプールされた中から、会社の経費を支払う。Aという顧客から預かったお金をBという顧客を出発させるために使うような、いわゆる「自転車操業」を徹底的に避ける。出来るなら、顧客ごとにお支払頂いたお金に名前を書いておきたいくらいだ。

以前在籍した会社でもこのキャッシュフローがうまくいかず、支払いの催促の電話が度重なることがあった。会社の代表が電話に出てしまえば、そこで結論を出さざるを得ないため、電話には出ない。しかたなく一社員の筆者はなんどか催促の電話に対応することがあった。
これを何度も経験したため、「自分が会社を作ったときには、催促の電話は絶対にさせない、お客様にも取引先にも公明正大に営業してやる」と思ったものだ。

何度か(というか常に)苦しい時もあった。しかしそこはSOHOスタイル、財産である社員を抱えることがないので、給与の遅延や未払いが発生することはない。苦しい時は自分が我慢するだけだ。そして身に余るほどの利益を得た時に、その我慢を精算する。

小さな旅行会社はお客様から預かったお金を持ち逃げするというネガティブなイメージを払しょくするため、そして「〇〇〇くらぶ」のような事態を起こさないために「公明正大」に会社を運営することだけが、難しいキャッシュフローを克服するカギだと筆者は考える。
スポンサーリンク

コメント