SOHOによる旅行会社の作り方15 - 自前と「餅は餅屋」の境界はどこか?

空港出発ロビー イメージ
はじめに誤解のない様に申し上げておくと、この「SOHOによる旅行会社の作り方」は独立起業のための講座ではない。前回書いた通り筆者の実体験を書いているだけで、これが旅行業で独立したいという人の参考になればという程度である。

さて、会社を設立して15年余り、出来る限り会社はスリムにし最低限必要で運営していく、それが自分なりのSOHOの基本だと思っやってきた。しかしそれには限界がある。今回はその限界の境界はどこで、その境界をどのように判断すればよいかについて書いてみようと思う。

「餅は餅屋」の理論

この言葉は誰もが聞いたことがあるだろう。何事においても専門家に任せるのが一番ということのたとえだ。サラリーマンだった頃は、この考えが仕事におけるスタンダードだと思っていた。
特に旅行業は、旅行業法にも書いてある通り「自らサービスを提供するものではない」代理業で、実際にサービスを提供する航空会社の提供する座席やホテルが提供する客室を代理して予約手配し、それを「旅行」という目に見えない商品に形作って販売している。だからよけい、さまざまな専門家に頼ることが多い。

しかし、会社を設立するときに「自分達でできることは自分達で」していこうと決めた。なにしろ起業するにあたって先立つものは心細い。その道のプロにお願いしたいのはやまやまだが、何しろその都度手数料がかかる。それなら自分で調べてできると思うものは、自分でやってみよう。そう思って設立時に自分でやってみたことは以下の通りである。
  • 会社設立時の登記書類作成
  • 定款作成
  • 旅行業登録申請
これらは通常行政書士や税理士に依頼するものだが、昨今は起業する人も多いため、ネット上にいろんなアドバイスやフォーマットが溢れている。
実際自分でやってみて思ったことは、登録に関する書類はどれも基本に忠実に書類を作成すれば何ら難しいことはなく、正直「なんだ、こんなものか」と拍子抜けするものが多い。つまりは「ペーパーワーク」の域を脱しないものだ。

会社設立後は、経理関連を自分でやってみた。今までこの記事のシリーズで何度も書いてきたが、毎日の伝票付けから勘定元帳、試算表作成、そしてそれをもとにした決算書類作成、そして確定申告書類だ。経理については単なるペーパーワークとはいかない。しかしながら裏帳簿をつけるわけでもないので、あるがままに伝票をつけ、試算表で間違いを正し、それを決算書にしていくだけのことだ。

本業で自分達でできること

総務、経理関連はある種ペーパーワークで済むことだが、本業の旅行業務はどうか?上述の通りサービス自体を提供するわけではない旅行業で、何が自分達でできることかを考えた。
それがよくわかる一例を紹介しよう。

国内の旅館手配には、東京案内所(業界では「東案」と呼んでいる)というものがある。電話での手配が中心だった一昔前、毎回地方にある旅館に直接電話していては通信費が高くつく。それを抑えるため、東京を中心とした関東近県に「東案」が出来、複数の旅館や食事処のサービス手配を一手に引き受けていた。旅館もより大きな「東案」に登録することにより送客が増えたので、旅館と「東案」は持ちつ持たれつの関係にあった。

海外も同様なサービスがある。ホテルによっては日本事務所があるホテルがあり、ホテルに直接テレックスやファックスを送ることなく手配が出来た。また旅館の「東案」同様、複数のホテルチェーンを一手に引き受ける日本事務所が、ひと頃はとても多かった。
これら東京事務所や日本事務所の存在価値が薄れてきたのは、インターネットとメールの発達だろう。プロバイダーに支払う毎月の使用料だけで、いくらでも海外にメールを送ることが出来る。国内もホテルや旅館宛にメールを送れば、東京案内所を通して手配する必要がない。

そして開業の際して何が自分達でできるかを考えた時、出来るだけこの類の"案内所"を通さない手配に務めた。
特に現在当社が販売しているテニス観戦チケット、乗馬ツアー、セントアンドリュース・ゴルフは、直接現地に連絡を取って取引を始めたものだ。
これらも登記書類のようなペーパーワーク同様、やってみれば「なんだ、こんなものか」のたぐいのものが多い。そして"案内所"のワンクッションがない分、何か問題が起きた時すぐに直接連絡を取ることが出来る。

旅行サービスとお客様をつなぐとき、間にいくつものクッションを作らない、ということが、自分たちにできることだった。

プロに依頼すべきもの

では反対に、先立つものが心細いSOHO会社が手数料を支払ってでもプロにお任せすることは何か?

旅行は常に事故やトラブルがついてまわる。たいていは楽しい旅行なのだが、不幸にも航空機事故や、バスや電車など交通系の事故のニュースを必ず聞く。
プロに任せなければならないことは、このように安全に関することだ。小さな会社が安全対策を自分達だけでできるわけがない。

企画旅行には旅行会社の義務としての特別補償保険と、事故対策費用保険(この2種の保険を総称して「業者保険」といっている)を必ずかける。また、旅行者自身の安全のために任意の旅行保険に加入してもらうようアドヴァイスする。そしてその保険は、航空サービスや宿泊サービス同様、旅行会社が独自で出来るものではなく、出来ないからといって無視できるものではない。

事故が起きた時の対策も自分達だけでは出来ないことだろう。社員数が少ないSOHOでは、事故が起きた時に責任者が現場に赴き、同時進行でマスコミ対策、そして事故に遭われたご家族対応などできるものではない。それを補うために、所属している旅行業協会の下部組織が行っている「緊急重大事故支援システム」というものがあり、それに加入している。いざというときには専門のスタッフを会社に派遣してくれ、社員数が少ない箇所にその道のプロを配置してもらえる。

現在、旅行業協会は日本旅行業協会(JATA)と全国旅行業協会(ANTA)の2協会ある。当社は前者に入会したが、会費面を考えると後者のほうがよっぽどリーズナブルだ。ではなぜ、当社のような小さな会社があえて会費が高い前者に入会したか?それはまさに上述の「緊急重大事故支援システム」を利用するためだった。全国旅行業協会(ANTA)にはまだこのようなサービスがない。

小さな会社が物理的に対応できないこと、そして安全に関すること、それが自分達でできるかどうかの境目だ。

まとめ

以上をまとめると、ペーパーワークで済むもの(主に総務・経理事務)や旅行手配に関することは自分達で、旅行業における安全管理はプロにお任せする。そして何よりも、お客様に迷惑をかけず旅行というレジャーを楽しんでもらえるものを提供する会社にすることである。

旅行業のような余暇産業は、不況の時にまっさきに需要が冷え込む。だからこそ、常にお客様のことを考えてサービスを提供するには安全というキーワードを忘れてはならない。
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