SOHOで起業した旅行会社のはなし|1〜きっかけと資金
脱サラして独立・起業するきっかけは、人によってさまざまだろう。
多くの人は、多少の不安を抱えながらも明るい未来を想像しつつするのだと思う。
しかし、筆者の場合は少し違った。
そのとき、旅行業界は低迷の真っただ中だったからだ。
SOHOで旅行会社を起業するにあたり、最初に直面する課題は「資金」と「事務手続き」だった。
独立・起業のきっかけ
それまで約14年勤めていた会社は、旅行とスポーツイベントの兼業会社だった。
90年代から徐々に旅行業界が低迷し、この会社でも業界の低迷に合わせ、売上が低迷していった。
2002年3月、かねてからの旅行部門の業績不振のため、この会社は業務縮小せざるを得なくなった。そのため、旅行部門の長として在籍していた筆者は、社長と個別面談し、
・イベント部門への移籍
・旅行業を続けたい場合は別な道へ(つまり退職)
の二者選択を迫られた。
その時点で、すでにこの業界に18年、今さら他の仕事が出来るわけでもない。
中途採用で、他の旅行会社に入るのは難しいご時勢&年齢だったので、家に帰りパートナーと相談。するとあっさりと、
「だったら独立しちゃえば?」
と言われた。
一瞬ピンとこなかったが、かねてから「自分の夢=旅行業で独立」ということを話していたので、そう返してきたのだろう。
パートナーにとって、その返事は自然なことだったのかもしれない。
「人生の転換期を、そんなに簡単に決めても良いものか?」
と思ったのは確かだ。
しかし、1人ではできないかもしれないが2人なら出来る。そう考え、意外にもこの言葉をあっさり受け入れることが出来た。
そもそも、
・旅行業は「エージェント」:大規模な企業体で行う業種ではなく、個人の顧客の代理人であるという考えであること
・在籍していた会社で感じた「これからは団体旅行よりも個人旅行が増える」という考えと、それにあわせた手配手段を考えていたこと
・何より独立はこの業界に入ってからずっと夢見ていたこと
だったからだ。
翌日、会社に「退職して独立すること」を伝え、それからわずか3カ月で退職&開業までに至った。
業界全体の不振、会社の業績不振が、独立のきっかけになったようなものだ。
旅行会社設立に必要な資金
最初に直面したことは、会社設立に必要な資金を工面することだった。
旅行業法では、旅行業を営むにあたり「基準資産額」というものが設定されている。
会社設立時の貸借対照表により、以下を満たしていなければ、旅行業を始めることができない。
資産合計 ー 負債合計 ー(営業保証金または弁済業務保証金の額)ー 資産の部のうち▲の金額
上記により算出される金額(基準資産額)が
・第1種旅行業を営もうとする者:3000万円以上
・第2種旅行業を営もうとする者:700万円以上
・第3種旅行業を営もうとする者:300万円以上
であること。
旅行業種別の説明は割愛するとして、筆者は募集型企画旅行を行わない、第3種旅行業を目指していたので、最低300万円の資本金が必要だった。
しかし、これだけではない。
基準資産額と同額の営業保証金が必要となる。
形のない「旅行」という商品を販売するにあたり、旅行者に対し一定の補償ができるように「営業保証金」というものを、別途用意し法務局に預けなければならない。
だが、旅行業協会の保証社員になっておけば、協会全体で営業保証金を分担し合う「弁済業務保証金」という制度がある。これなら、売り上げに基づき、最低5分の1で済む。
設立時の2002年、まだ第3種の営業保証金は250万円だったので、その5分の1で50万円だ。
最後に、旅行業協会へは無料で加入できるわけではないため、「日本旅行業協会」への入会金80万円が必要だった。
別途、「全国旅行業協会」という組織があるが、こちらの入会金は桁違いに安価だった。しかし、後に書こうとしている「緊急重大自己支援システム」を鑑み、厳しかったが「日本旅行業協会」を選んだ。
筆者が会社設立にあたり必要な最低資金は、
300万円+50万円+80万円=420万円
であり、それをそのまま資本金とした。
この金額は、銀行から融資してもらうことなく、自身とパートナーがそれぞれ保険を解約するなどして工面した。
会社設立登記
次は、事務手続きだ。
会社設立にはいくつもの事務手続きがある。会社設立にあたって最初に考えたことは、
「自分達でできることは自分達で」
ということ。
会社登記申請書から旅行業登録申請書類まで、また開業後その都度行わなければならない事務処理は、可能な限り自分達で行うことを徹底することにした。
行政書士や税理士に頼れば簡単に済む話だが、その時は何でも自分でやってやろうという、かなり前向きな気持ちがあった。
まずは出資金でパソコンを購入し、同時に「有限会社の作り方」という本を購入する。そこに記載の通り、ひたすら書類作成を進めていくことにした。
登記申請の前にしなければならないことは、
・類似商号確認(@法務局)
・代表社印&角印作り(@近所のはんこ屋さん)
・定款を作成し公証役場で定款認証(@公証役場)
・メインバンクを決めて出資金払い込み(@銀行)
だ。
そして、それらの書類等がそろった後、やっと会社登記申請書類を作成することができる。書類作成後は、再び法務局へ行き登記申請をする。ここまでが会社設立までの一連の流れだ。
通常、登記申請のための書類は行政書士さんに依頼するのが一般的だろう。
だが、書類は本にもインターネット上にもひな形がたくさん出ているので、それに沿って作っていくことができる。小さな資本で始めるには、何でも自分達で行わなくてはどんどん経費がかさんでしまう。
幸い、小さな旅行会社を渡り歩いてきたため、各会社で主だった部署の仕事を一通りやってきた。
旅行業務はもちろん、
・経理(毎日の伝票作成など)
・法務局への各種申請手続き(やたらと法務局への申請手続きが多かった会社での会社の移転やその他もろもろ)
・旅行業登録関連
・社内インフラ(引っ越しの多い会社での電話、パソコン設置関連)
といった総務関連業務は、大企業にいたら、おそらく一生経験できなかったことだ。だから、登記申請書類作成にも、腰が引けることなく出来たのだと思っている。
こうして、登記申請が完了し、めでたく会社設立完了だ。
在籍していた会社へ退職することを伝えてから、わずか約2週間での作業だった。
旅行業登録申請
めでたく会社を設立することが出来たら、次に旅行業登録申請手続きが控えている。これも書類作成がほとんどだ。
開業について、管轄する東京都旅行業係に相談に伺った際もらってきた(買ってきた)、旅行業新規登録のマニュアル及び申請書類フォームを使って作成。
申請にはやたらと用意する書類が多いのだが、これも在籍していた会社の更新登録手続きを担当していたので慣れたもの。
しかし、自分ではどうにも揃えられない書類がある。
それは、旅行業協会入会への推薦状だ。
旅行業登録申請には、上述の通り旅行業協会へ入会することが条件となる。その協会への入会には、既に会員となっている会社の代表から、推薦状を書いてもらわなければならない。
こればかりは自分で書くわけにはいかないので
・以前在籍していた会社の先輩で、先に独立していた人
・別の会社に在籍していた時、お世話になった会社の社長
にお願いした。
こうして書類をそろえて、改めて東京都の旅行業係へ。
申請書類をチェックしてもらい、書き直しを言われることなく、そのまま受理された。
登録が完了の連絡を受けるまで約1か月少々かかった。
注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。
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